2015年5月20日水曜日

経済的弱者と自己責任論と経済格差

なぜ若者は遣い潰されるのか -- 日本のアニメはブラック業界」を読んだ。多くのアニメーション製作者が、社員ではなく個人事業主であるとは知らなかった。社員であれば(雇用されていれば)最低賃金や労働時間などについて労働法で保護されるが、個人事業主には適用されないため合法かつブラックな状況にあるようだ。

社会に出たての若者に「君たちは労働者ではなく個人事業主である」と刷り込んで、ひどい環境に追い込むのはもちろん(違法ではないにしろ)ブラックだが、それは根本的な問題ではない。社員になるか個人事業主になるかは自由な選択であるべきだし、そもそもブラックな環境からは人が減るべきで、人を採用するために環境がホワイトになっていく、というのがあるべき姿だ。
であるのに、この環境が改善されない原因は 3 つあると思う。

流動性のない労働市場

今更書くこともないが、転職が一般的でない状況では、「アニメ業界はブラックだから転職しよう」という意識が生まれない。生まれたとしても受け入れる業界がない。アニメ業界でしばらく働いて「この業界はやばい」と気がついたときには、もう逃げ道がなくなっている。

「好きなことを仕事にしよう」 教

よく似た宗派に「お金のために働くのは悪だ」教がある。これを布教してるのは、「好きなことを仕事にして」成功した(またはそれなりに暮らせている)人である。これで幸せになれる人は限られている。
まず、「ユーザー・顧客として好きなこと」と「働くのが好きな業界」とは異なるのが普通だ。「アニメが好き」だからといって「アニメ業界で働くのが好き」ということにはならない。現にそうではない人が多いから問題になっているわけで。
私はゲームが好きだが、ゲーム業界で働くのが楽しいとは思えないし、読書(オンラインのも含めて)が好きだが、執筆者・編集者になろうとは思わない。(自分では)稼げなさそうだからだ。優れたゲームデザイナーになれるとも思えないし、出版業界はそれ自体が斜陽産業に見える。

そうではなくて「お金を稼げる仕事をしよう」と言うべきだ。「社会に貢献できる仕事をしよう」と言い換えてもいい。資本主義社会では基本的に同じことだけど。

この教えを信じた人がアニメ業界に吸い込まれて、気付いた時にはもう手遅れなのだとしたら、救いのない話しだ。
などと書いている私も、学生時代に深く考えることなく、好きなこと(プログラミング)を仕事にした。今それなりに豊かな生活が送れているのは単に幸運だったからだと言える。

経済的弱者への厳しさ

もとの記事でも触れているが、こういう状況に対して「それは自己責任だから」という反論が考えられる。アニメ業界に就職したのはたしかに自分の選択の結果だが、最初の就職先がブラックで、転職も難しい状況で、それを自己責任で片付けるのは厳しすぎる。政府の警告を無視して紛争地帯に行って捕虜になるのとは話が違う。

たいした根拠のない主観だが、この「弱者に対する厳しさ」は、強者と弱者との差が小さいからではないかと思う。弱者と自分との差が大きくなければ、例えば年収 300 万円と 200 万円なら、「おれは努力してるから 300 万円を稼げるんだ。あいつらも努力すればできるはずだ。援助は不要だ」という考えに至ってもおかしくない(気がする)。これが年収 2000 万円と 200 万円なら「200 万円で生活してる可哀想な人たちのために何かできることがあるはず」という憐憫の情になり、自己責任を持ち出したりしないのではないか。

先日、職場のメーリングリストにこんなメールが流れた「オフィスの前の通りにいつも座ってるホームレスは、今日が誕生日なんだって。みんなでケーキを買ってプレゼントしない?」このスレッドはかなり長くなり、結局何人かがケーキを買って写真を取っていた。
正直言って、このメールをみたときに違和感を覚えた。今日ケーキを買ったところで彼の生活は何も変わらないし、彼がホームレスをしている原因の一つが、われわれソフトウェアエンジニアの高給と、それによる San Francisco の物価高騰であることは間違いないだろう。
しかし、平均年収約 $130,000 のソフトウェアエンジニアは、多分 $10,000 もないだろうホームレスに「自己責任」は求めないし、(どの程度の覚悟があるのかはわからないが)「助けてあげたい」と思っているようだ。

若干(かなり?)こじつけ感のある話だが、ようするに「もっと格差が大きくなれば、『自己責任論』を持ち出す人は減るのでは?」と思ったのだった。でもそうなる前になんとかしないといけないんだけどね。(Wikipedia にあった国別ジニ係数の推移。 )
経済格差を示すジニ係数。日本は上昇中で 0.28 @ 2005。アメリカは 0.4 に近い。


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